個人的に思い出深くもあり、また非常に出来のいい緊縛写真です。縄師とカメラマンがシンフォニーを唱えるとこれほどまでに味わいのある写真が撮れます。昭和61年4月号のSM秘小説で「官能的愛虐夜」と命名され掲載されました。その未使用分も含めて公開しています。
瀬川奈津子は憎めない女でした。東京に流れ着いた彼女は、寂しがりやでいつも撮影スタッフと遊んでいました。
やがてカメラアシスタントの通称ヤマと恋に墜ちます。しかし間もなく事件が起こりました。二人が同居する六畳一間のアパートに刑事たちがなだれ込んできました。マリファナ事件でヤマが逮捕され、現場に居合わせた彼女は半ば錯乱状態で公衆電話から助けを呼びました。しかし彼女は知らなかったのですが、その背後には尾行の刑事がいました。
電話で彼女はヤマが誰から譲り受けたかを喋っていたのです。刑事は戻ると、取調室に手錠で繋がれたヤマに問いただしました。
「お前に譲り渡した奴を知っている。俺たちはそいつを捕まえたいんだ」
ヤマは固く口を閉ざして男になろうとしていたのです。しかし逮捕間もなく友人の名前を出されその決意も打ち砕かれました。そして友人に追及の手が伸びました。
面会に出入りし、浸るように警察にいた彼女はある日、その友人宅にいよいよ警察が踏み込むと立ち聞きし、友人に告げました。
「逃げて」と。
しかし友人は静かに警察を迎えました。そしてディスコで手に入れたと自白し、刑を受けました。物証は友人宅になく、自供とヤマの供述だけでした。
結局友人を売ってしまったクマは、出獄すると彼女と手を取りあい見知らぬ土地に消えました。彼にしてみればすぐに出て来る友人や周囲に顔向けが出来なかったからです。
カメラマンはアシスタントを失い、ヤマは夢を失い、ヤマの友人は親友をなくしました。ただ瀬川奈津子だけが逃避行の中で覚悟の幸せを掴んだのです。風の噂で車の修理工をしていると聞きました。二人が今も仲睦まじく暮らしているといいのですが…。
この縛りは、事件以前の作品です。雨戸を閉めきった熱海旅館で撮影されました。その雨戸を僅かに開き、こぼれる日差しで切り取られた姿が叙情的です。哀愁さえ漂わせています。
かなり厳しい縛りに黙々と耐える姿が痛々しくさえあります。M女のたしなみとして、股間も奇麗に剃り上げられています。濡木先生の縄も冴え渡り、これでもかと女体を歯んでいます。
芸人のようにおどける本人もこの時ばかりは、真摯に縄に対面していました。そんな彼女のコンプレックスは25.5cmの大足で、あう靴が見つからずいつもスニーカーでした。
切なく思い出深い作品です。
SM秘小説webにて公開中。